蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

愛犬ムク六周忌


♪ある晴れた日に その21

OH!アデュー 人語をはじめて口にして 
老犬ムクは いま身罷りぬ

ネンネグー 阿呆ムク 可愛ムク 処女のムク
盲目のムク いま昇天す

鎌倉の 山野を駆けし細き脚 
そのマシュマロの足裏を ぺろぺろ舐めおり

ここで跳べ! ザンブと飛び込む滑川 
ウオータードッグよ 輝きの夏

大蛇(くちなわ)を ガブリくわえて二度三度
振って廻して ぶん投げしムク

ヒキガエルの逆襲浴びし野良のムク
目の毒液をヒリヒリはがす 

十七年 一直線に駆け去りぬ 
今一度鳴け 野太きWANG!
  
「狂犬病の注射に出頭せられたし。佐々木ムク殿」と
鎌倉保健所は葉書を寄越せり

庭に眠るムクのからだの腹のあたり 
濃き紫のアサガオ咲きたり

崖下の庭の土なるムクの墓 
アオスジアゲハの雌雄乱舞す

まぎれもない獣の臭いが好きだった
丘の上にて尾振りし汝(なれ)の

春風に吹かれて一声吠えるムク

丘に立ち一声吠えしうちのムク