蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

断腸亭主人の紳士洋装論その2


ふあっちょん幻論第33回 メンズ漫録その11


日露戦争以来10年、学生とも軍人ともつかない一種の制服姿の男どもが東京に跋扈するようになった。ドイツ陸軍かぶれの金ボタン、立襟の制服に辟易したものである。

それはともかく、銀行などの夏服は白立て襟の洋服に扇子を持つのがお洒落ということになっていたようだが、(荷風の勤務先は横浜正金銀行)これは上海・香港のような植民地ファッションであって悪趣味のものである。特に扇子というものは、西洋婦人や紳士の杖と同様、儀礼的にただ手に持つべきものである。それをバタバタと扇ぐなどもってのほかである。ともかく日本はやることなすことちゃんぽんで野卑に堕すことが多い。繰り返すが、扇子で扇いではならない。

欧米の紳士は1日に3度洋服と帽子を取り替える。他家を訪問する際はフロックコートを着るべきである。フロックコートは高帽子と組み合わせると、品がよくて最高にカッコイイものなり。また夕方からは燕尾服を着るべきである。
またジェントルメンは、寒暑にかかわらず手袋をする。杖は絶対に突いてはいけない。

荷風散人曰く。「先に土のつきたるは見苦しきものなり。室内も持ち歩くのみ。」

あまでうす曰く。そんなこととは知らなんだ。


果樹園の白梅いまだ四分咲きにして富士のお山は本日見えず 茫洋