蝶人戯画録

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荷風いわく「日本製は中国に劣る」、と。


ふあっちょん幻論第35回 メンズ漫録その13 断腸亭主人紳士洋装論その4


永井荷風いわく。洋服仕立ては日本より中国に限る。とりわけお薦めしたいのは帝国ホテル前のシナ人洋服店である。銀座の「山崎」などは糸を惜しみ、なおかつ高い。縫い目、ボタンのつけ方健固ならず。まことに「日本の商人ほど信用を置きがたきはなし。」

あまでうす註。この山崎とは、米国ミッチェル裁断学校を卒業した山崎隆造を指す。後に彼は明治37年開催の米国万国博覧会仕立て服コンクールで金賞を受賞し、銀座に「山崎高等洋服店」を開いたが、荷風はその「山崎」が駄目だと言っているのである。また当時の国産よりも中国人による縫製に軍配を上げているのも興味深い。荷風自身もシナ人などと慎太郎風の「差別用語」を使っているように中国への蔑視はあるのだが、にもかかわらずいながらも、見るべきところをきちんと見ている冷徹な文学者の視線に感動すら覚える。

それはともかく、いずれ21世紀のわが国の全産業部門で、こういう荷風的事態を迎えることだろう。


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