蝶人戯画録

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続 暑中お見舞い申し上げます

♪音楽千夜一夜第73回


オペラ以外のお買い得、聞き得CDもいろいろありました。まずはドイッチエ・グラモフォンのブラームス全集全46枚組のセットです。
これまで4つの交響曲をはじめ管弦楽曲を中心にさんざん聞きかじってきたブラームスですが、このセットの大半を占める7枚の歌曲、8枚の合唱曲がことのほか新鮮でした。

歌手はジェシーノーマン、フィッシャーディスカウなどの大家にダニエル・バレンボイムが絶妙のピアノ伴奏をつけています。エディット・マチス、ビルギット・ファスベンダー、ペーター・シュライヤーのアンサンブルにカール・エンゲルが伴奏した二重唱、三重唱もまたとない盛夏の聴きものといえるでしょう。

ルドルフ・ケンプを中心としたピアノ曲、アマデウスカルテットを主力とした弦楽四重、五重奏曲、カラヤンベルリンフィルによる4つの交響曲もいかにもブラームスらしい重厚な演奏ですが、とりわけ若き日のアバドによる2つのセレナード、ポリーニの独奏による2つの協奏曲は本集の白眉といってよいでしょう。
ともかくブラームスを一枚三〇〇円程度で骨の髄まで享楽できる充実した全集でした。

次はこれも若き日のレオナード・バーンスタインが七〇年代にニューヨーク・フィルを振ったハイドンのロンドン$パリ交響曲集にいくつかのミサ曲とオラトリオ「天地創造」を加えた12枚組の超廉価盤。後年の重厚長大で悲愴な大演奏とは一味も二味も違う、いわば軽妙洒脱で都会的なハイドンがわずか1枚200円強で楽しめます。
ハイドンの「天地創造」はきのうカイルベルト&ケルン放響の1957年の演奏を聞きましたが、これがあの名人カイルベルトかと思う期待はずれの凡演で、ヤング・バーンスタインに軍配が上がってしまいました。

ちなみにこのカイルベルトの演奏は、現在Membranというドイツのレーベルから出されている1枚130円の廉価版のハイドンセットに入っています。ちなみついでに、私がこの10枚組シリーズで購入したのは、ハイドンのほかに「ヘンデル」「パブロ・カザルス」「エリザベス・シュワルツコップ」「ブルックナー交響曲集」の各セットで、これがどれもこれも名演奏ばかり。シュワルツコップのモーツアルトを聴いているとかたじけなさのあまりに文字通り泣けてきます。

カザルスの無伴奏チエロの2枚組は、もうおなじものを何セットも買って(買わされて)いますが、なぜだかこの安物の録音が私の耳にはいちばんしっくり届きました。カザルスってほんとうにすごいへたうま音楽家だったんですね。
またMembranの「ヘンデル」集には同じバーンスタインニューヨーク・フィルによる1956年録音のメサイアが入っていて、これはハイドンをしのぐ情熱的な名演でした。いわゆるひとつの掘り出し物というやつでしょうね。

To be continued

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