蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

残暑お見舞い申し上げます


♪音楽千夜一夜第74回


前回話に出てきたヨセフ・カイルベルトですが、去る8月3日の夜にブラームスの1番を聴き、その真率の気に満ちた演奏に驚嘆しました。1968年5月のN響とのライブですが、彼は帰国わずか2ヶ月後の7月に「トルスタンとイゾルデ」を指揮しながら世を去りますから、これはまさしくわが国の音楽ファンにたいする白鳥の歌だったといえましょう。
同じ日の放送のロブロフォン・マタチッチのベートーヴェンの7番、オトマール・スイトナーのモーツアルトの39番も絶品で、当時のN響と比べていかに今日のそれが腐敗堕落しているか、さらにこの偉大なる指揮者に続いてN響が迎えたブロムシュテットだのデュトワだのアシュケナージだのがいかに下らない三流役者であるかを雄弁に物語る演奏でした。

古典音楽を聴けば聴くほど痛感するのは、古代、縄文、新石器時代の芸術家の素晴らしさです。ベートーヴェンの交響曲全集も毎月のように発売されていますが、改めて聞いたトスカニーニのすごさは、カラヤンなど足元にも及ばぬ迫力でした。これはソニー&BGMの最新リマスター版が@200で入手できます。


ALTUSレーベルからこれは1枚1000円という高値で発売されている外来オケのライブではムラビンスキー&レニングラードフィルの「田園」&ワグナー管弦楽集、チエリビダッケ&ミュンヘンフィルのブラームスの4番、クーベリック&チエコ響のスメタナ「わが祖国」のサントリーホールの一期一会のライブが名状しがたい感興を誘います。

私がクーベリックと手兵バイエルン放響の生演奏を耳にしたのは70年代のパリ・シャンゼリゼ劇場でしたが、生まれて初めて聞いたマーラーの4番の独唱に思わず涙した日のことをいまでも懐かしく思い出します。そのクーベリックマーラーの5番の1981年6月12日の壮絶なライブ録音は、同じく1枚1000円のaudita盤で堪能することができます。グラモフォンの全集も手元に備えるべきですが、やはりクーベリックマーラーは、ライブで炎と燃えるのです。

こんな調子で続けていくと秋になってしまうのでもうやめますが、最後にご紹介したいのは現在世界で最も充実した演奏を繰り広げているマリス・ヤンソンスによるショスタコービッチの交響曲全集です。ベルリンフィル、ロンドンフィル、クーベリックゆかりのバイエルン放響とオーケストラはさまざまですが、ロストロ&ワシントン響盤などを圧倒する素晴らしい演奏を聞かせてくれます。これも1枚250円也。バレンボイムベルリンフィルによるモーツアルトの協奏曲集九枚組にショルティ、シフとの2台、3台協奏曲のDVDをおまけに付けて2800円ともどもお薦めです。

あれも聴きたい、これも聴きたい。1枚500円以下で聴きたい。聞くはいっときの快、聞かぬは一生の損。そんなアホバカマニアがいま発注しているのは、アルゲリッチの独奏&協奏曲全集全15枚。この秋も各社から超廉価CD、DVDが続々発売されるようなので目が離せません。


♪聴くはいっときの快、聴かぬは一生の損 茫洋