蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

梟が鳴く森で 第12回

9月25日

今日は大好きな横浜線に乗って東神奈川で降りて「小児療育センター」へ行きました。そして、脳波をとりました。脳波のギザギザの線を指差しながら、S先生は、ここいら辺がちょいとゆるいんだとね、と、仰いました。
中脳の辺りに僕のウイークポイントがあるそうです。そのウイークポイントのせいで、僕は周囲の状況がよくのみこめず、社会的な発達がかなり遅れているそうです。

S先生は、仰いました。「自閉症というと、自ら閉じこもる病気と誤解されて、オタクの人たちと一緒にされてしまいがちだけど、全然違う。大体からして自閉症は病気じゃないんです。脳の中枢神経系が生まれながらに損なわれているために、いろんなかたちで引き起こされる発達障碍です。しかも心因性じゃなくて、器質の障碍。先天性の身体因を持って生まれた一種の欠損児、欠陥児が自閉症児なんです。だから、自閉症の原因は、ひと頃マスコミでさわがれた「心の病気」とか「カギっ子」のせいではない。まして「母源病」とか親の養育方法の誤りに起因するものじゃあ全然ないんだな。」

 しゃべりながら次第に興奮してきたS先生は、ここでお父さんとお母さんの質問に答えながらまた自閉症について語り始めました。

「そうですねえ、この障碍は2歳半ごろまでに代表的な症状が出そろいますねえ。例えば、それまでにちょっと出始めていた言葉が出なくなっちゃって、会話なんかほとんどできないこと。それからキャッチボールがうまくできない「運動の障碍」もある。さらに「同一性への固執」といって、水道からチョロチョロ流れる水とか、ドブの穴、扇風機やかざぐるまのようなぐるぐる回るものなどに四六時ちゅうこだわる子もいます。あんな何の変哲もないものに、まるで魅入られたように引きつけられるんですね。
あとは遊びができない。例えば汽車ポッポなら汽車ポッポを道具として使って、友達と一緒に遊ぶというようなことが全然できない。汽車ポッポの特定の一部、ぐるぐる回る車輪とかエントツの穴にしか興味がない子もいます。それを僕たちは「遊びの常同性」とか「行動のパターン化」とか呼んでいますが、ともかく非常に狭い限定された形でしか遊べないし、社会性を持った行動ができないことが多い。もちろん年齢とともにだんだん進歩する子もいるし、いろんな面で健常者のレベルに近づいていく子どももいますが、その反対に発達がとまっちゃう子もいるようです」


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