蝶人戯画録

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大野和士指揮モネ王立劇場管で「さまよえるオランダ人」を視聴する


音楽千夜一夜第102回

これは05年12月20日のベルギー・モネ劇場での公演をライブ収録したもの。CGを得意とするギー・カシアスとかいう男が演出を担当していますが特にどうということはなし。

オランダ人をエグルス・シリンズ、ヒロインのゼンタをアニヤ・カンペ、エリックをトルステン・ケルル、ターラントをアルフレッド・ライトナーという聞いたこともない布陣ですが、これまた特にどうということなし。

大野の指揮は例によって全曲を背伸びして見通したうえで、知的に組み立て、抑えるところは冷静に、燃え上がるところはエネルギッシュにという風に、めりはりをつけた演奏でしたが、だからといって見者の心拍が激変して世界観が変わるというようなこともなしで、まあこれが欧州の通常の平均的なオペラ公演といえばいえるのでしょうが、典型的なルーチンワークといって過言ではないでしょう。

好漢大野はすでにモネ劇場のシェフを辞して、去年からフランスのリヨンの国立歌劇場の首席に赴任していますが、このようなゆるい演奏を続けていると、あの小澤や大植英次のような下らないワーグナー指揮者に転落する危険がいっぱいです。

ここ数日夜の9時になると、09年夏のバイロイト音楽祭のライブ録音を放送していますが、ティーレマンが振ったワーグナーの「指輪」のエキサイティングな演奏などをぜひ参考にしてほしいものです。


バスの中曇り硝子に一指も触れぬ大人かな 茫洋