蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

梟が鳴く森で 第2部たたかい 第2回


bowyow megalomania theater vol.1

10月20日 雨

食っちゃ寝、食っちゃ寝、して、なにが悪い。豚みたいに生きて、なにが悪いんじゃ!

と、軽度の脳性麻痺の公平君が車椅子をけっとばして叫びました。

オレは18歳じゃ、オレは男じゃ。オレはヨーコを抱きたい。中田先生、オレをヨーコのところへ連れていってくれ! 

と公平君はもつれた舌をくねらせ、全身をウナギのようにでんぐりがえらせ、わななかせながら、白眼をひんむいて口から泡吹いて叫び続けました。

担当の女性の中田先生は、口をあんぐりとあけて、普段はあんなにおとなしい公平君が激しく憤るさまを呆然と見詰めていました。園長先生も駆けつけてきましたが、公平君の恐るべき気迫にけおされて、見守るしかありませんでした。

車椅子の人ばかりでなく、大勢の仲間たちが公平君の異議申し立ての姿を見ていました。

おーし、僕だってなにかやらなくちゃ!

という気持ちが、鈍い身体の奥底から湧き起って来るような、そんな気分が僕だけじゃなく、のぶいっちゃんにも、ひとはるちゃんにも、まるで神宮寺の池に投げられた小さな石によって出来たささやかな波紋のように、ひたひた、ひたひたと伝わってくるような、そんな雨の日の午後でした。


♪フランス人がライオンの歯と名付けたるタンポポの花のギザギザを愛す 茫洋