蝶人戯画録

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鎌倉国宝館で「鎌倉の至宝展」を見る


茫洋物見遊山記第23回&鎌倉ちょっと不思議な物語第215回

連休の晴天の日にこのコレクションを駆け足で見物しました。例によって国宝、重要文化財がさりげなくどっさり展示してあるのが魅力です。

今回の目玉はご近所の浄妙寺の仏殿本尊である「釈迦如来像」が鶴岡八幡宮伝来でいまは寿福寺にある「銅造薬師如来像」と並べて展示されたことでしょうか。
解説ではその両作品が運慶派の優品であるとして喋々云々していますが、私の心眼では両者のポーズ以外なんの関連もなさそうでそれほど大騒ぎするほどのことはありません。

むしろ特筆大書すべきは後鳥羽上皇から源頼朝に贈られた螺鈿蒔絵の硯箱です。その絢爛豪華ななかにも王朝の趣味と高雅を湛えた美しさは、本邦工芸品の最高峰にランクされてしかるべきでしょう。

じつは上皇から北条政子に贈られたこれと同工異曲の優品があったのですが、明治6年にウイーンで開催された万国博覧会に出品すべく欧州に向かった輸送船が不運にも沈没してしまったために、哀れ海の藻屑となってしまいました。
じつにもったいないことをしたものです。

そのほかには北条氏の求めに応じて中国の南宋から建長寺にやってきた蘭渓道隆の書や肖像画などがたくさん並べられ、波濤を越えた烈々たる宣教心の一端を披歴しています。

なお本展は、薫風吹きわたる鶴岡八幡宮の一角で来たる6月6日まで開催されています。


♪飛んでいる蝶の名前を言えることほぼゆいいつの長所ですかね 茫洋