蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

レヴァインMETでモザールの「魔笛」を視聴する

音楽千夜一夜 第144夜


毎度おなじみの千夜一夜でげす。

そういえばこないだ久しぶりにモツアルトの「魔笛」を視聴しましたが、やはり古今東西無敵の名曲でやす。演奏はジェームズ・レヴァイン指揮のメトロポリタン歌劇場管弦楽団。1991年11月の公演をてだれのブライアン・ラージがライブ収録したものです。

演奏はいつのもレヴァインらしい安定したモーツアルト節。もっと劇的にやればやれる人ですが、そこはぐっと抑えてあら珍しや英国の美術家デイヴィット・ホックニーのポップな演出に奉仕しておりやす。

出演はザラストラにクルト・モル、タミーノにフランシスコ・アライサ、夜の女王にリチアーナ・セッラ、加えてタミーナにはキャスリーン・バトルといった御一行さん。

レヴァインによってその類稀なる才能を見いだされたバトル嬢は、このオペラハウスの専属ソプラノとして大活躍しておりやしたが、根が下賎の身であったのか生来の遺伝子のゆえか、はたまたニューヨークの花見酒気分の観光客どもにちやほやされてだんだんと嬌慢の病に冒されたのかはいざしらず、次第に彼女の自堕落な立ち居振る舞いが湿地のツキヨタケのごとくにょきにょきと芽生え、夜遊び朝寝坊のあまりたびたびリハーサルにも遅れるようになりやした。

バトル嬢は温厚無比なる音楽監督を軽んじて恩を仇で返したのみならず伝統あるオペラハウスに多大の迷惑をかけること度重なるに及んで、ついにこの公演のあとしばらくしてMET永久追放の憂き目をみることにあいなりました。

身から出た錆びを地でいく阿呆の所業、諸行無常とはこのことかや。雉も鳴かずば撃たれまいに、の嘆きの一言が天井桟敷のどこかから聞こえてくるような黒き白鳥の歌であり、鶴の最期の絶唱でありまする。

♪チャンチャン、スチャラカチャンとまことにお粗末な一席でげす 茫洋