蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ルミネの広告


茫洋広告戯評第13回

JR東日本が運営する商業施設「ルミネ」は、おなじ会社による駅ナカ施設「エキュート」の大宮や品川、立川店などと共に都会の若い女性に人気があるようです。

エキュート品川」が誕生した日に、見違えるようにきれいに変身した構内を散歩していましたら、昔私が駅の前」キャンペーンをやっていた丸井にヒントを得て、これからは駅中の小売店が百貨店を駆逐するに違いないと大予言して当時の会社の人たちに奇人変人扱いされたことをはしなくも思い出しました。少なくとも人よりも建物の寿命の方が長いのですね。

 さてルミネは「仏語flumiere と英語mine」の合成語ですし、(エキュートは「駅+cute」の合成語)、そのスローガンが「わたしらしくをあたらしく」であることをみても、この商業施設のコンセプトをつくった人はタダものではありません。恐らくこれは例の「ルミ姉」を主人公とするテレビCMを企画制作した電通のプランナー兼コピーライターの田中選手ではないかとにらみましたが違っているでしょうか?

 さて設立当初は大手の広告代理店の専門家によって巣だっていったこの「ルミネ」の広告キャンペーンは、現在は親会社の系列下にあるJR東日本広告によって企画制作されているようです。私がよく利用するJR新宿駅の湘南新宿線の線路際の構内広告にはサントリーピーチジョン(ワコールに買収された下着メーカー)と並んで、「ルミネ」の巨大ポスターが掲示され、割合頻繁に更新されています。

 いやでも目に入るのでじっと見つめているとどうも焦点が定まりません。歳のせいで視力が減退しているのかと思っていましたが、どうもそうではありません。春夏秋冬歳時記のように張り出されるファッション広告のキャメラマンは毎回ニナミカこと蜷川実花であり、彼女のピンはいつも甘いのです。意図的に甘くしてあるのです。

これはつねに商品に正確にフォーカスすることを暗黙裡に義務付けられているファッションの広告の世界ではきわめて例外的なケースであり、そこにニナミカ選手とルミネという企業の独特のスタンスが象徴されているのかもしれません。

 ニナミカが好むのは大空をバックにした砂浜や青い海で、そこに主人公の若いモデルが空中ブランコをしたりハンモックで揺れていたり、おとぎ話の馬車に乗っていたりするのです。
それはまあ許せるとしても、これにつけあわせになっているキャッチフレーズが毎回きわめて頭でひねくりまわしたコピーなのでいささか難があります。いま使われている「体ごと着替えたくなる時がある」もまるで男がこさえた観念的な文章で、その凡庸さを救おうとするかのように毎回グラフィックデザイナーが発明している奇妙奇天烈な変態書体と相俟って、私的には辛口評価にならざるを得ません。


  ♪朝比奈の峠の上で立ち小便 茫洋