蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ショルティ指揮ロンドン響で「青ひげ公の城」を視聴する


♪音楽千夜一夜 第148夜

懐かしやハンガリーの歌姫シルビア・シャーシュによるバルトークの傑作オペラです。

しかも作曲者も、指揮者も、青ひげ公役のコロシュ・コヴァーチエも、もちろんシャーシュもハンガリー人という完全なお国もののラインアップ。そこまでやるならどうしてハンガリーのオーケストラでやらないのかと思うのですが、そこはやはり老練ロンドン・フィルのバックアップあってこそのこの演奏でせう。

ニヒルでクールで残酷な青ひげ公のどこが女心をそそるのか、私にはてんで理解できませんが、そんな怪しい男にシャーシュ扮する美しくうら若い乙女は一方的にいれあげます。古今東西好きになるというのは本人にもどうしようもない病気ですから、不治の恋愛病に冒された重病患者は、両親も兄弟も、婚約者さら投げ捨てて、くだんの青ひげ男の前に身を投げるのです。なんとも管とも、あほなやっちゃ。

ところで、ひとつ、ふたつ、またひとつと青ひげ公の秘密の部屋をひらいていく趣向は、ヨハネ黙示録の世界の終りに封印が開示される状況にちょっと似ているところがあります。

ご存知のように新訳聖書では、第4の封印が開かれるとロープシンの「蒼ざめた馬」が、第5の封印では殺されし者たちの霊魂が叫び、第6の封印では地震が起こり月が真っ赤になりますが、最後の「第7の封印を解けば、およそはんときのあいだ天静かなりき。われ神の前に立てる7人の御使いを見たり」という光景が展開するのですが、この扉を開いてさあ今度はどんな怖いものが出てくるのだろう。はらはら、どきどき、という感じを、バルトークの音楽はとても上手に出していると思うのです。

それにしても「第2のカラス」などと呼ばれてひところちやほやされていたシャーシュ嬢、いったいどこへ消えてしまったのでしょうか。


♪クロシジミ一羽舞ひたり中野坂上プラットホーム 茫洋