蝶人戯画録

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スパイク・リー監督の「インサイドマン」を見て


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.44

デビューしたての頃のスパイク・リーはハリウッドのユダヤ系白人文化とはまったく無縁の異界の地底人が土足で映像世界に乱入してきた感があって、1982年の「ジョーズ・バーバー・ショップ」は映像のつくりや文体は乱暴だがそれがかえって新鮮に思えたものである。

その後着々と地歩を固めた彼は、89年には「ドウーザライトシング」、92年には「「マルコムX」を撮った。これらはまさに彼の出自とその文化的特異性をフルに発揮した作品ではあったが、私は映画の内容以前にその政治的アジテーションが鼻に付き、この人は映画監督より政治家にでもなればいいのにと思って、長い間放置していた。

ところが先日偶然目にした「インサイドマン」という映画の監督が彼だったので、その後のスパイク・リー選手はどのような展開を遂げたのであろうかと興味津々で見物してみたのでしたが、いったいこれはどういう映画なのか。

もちろんニューヨークの銀行強盗のお話ではあろうが、手口は映像で説明していても動機や背後関係は最後まで不明であり、リー選手がナチ協力者である銀行の頭取や金融資本、司法行政の権力者共に対して非友好的な態度を堅持していることはうすうす分かってもだからこの映画の落とし前をどうつけるんだ、と私が怒鳴ったときにはデンゼル・ワシントンを主役にギャラだけが高いジョディー・フォスターなども起用した鳴り物入りのハリウッド映画はすでに終了していました。これほど龍頭蛇尾の作品も珍しいでしょう。

不幸なことにスパイク・リーはいたずらに馬齢を重ねているようです。


♪馬齢なら俺だけで十分じゃと茫洋いい