蝶人戯画録

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ロバート・ワイズ監督「砲艦サンパブロ」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.52

海千山千のロバート・ワイズ監督が1966年に製作した本作は、1920年代の中国に進出したアメリカの軍人の生態と悲劇をえぐる問題作である。

当時は日帝を含めた列強諸国が清の柔らかい横腹を食い破ってわがもの顔に浸食していたわけだが、植民地の利権を守るために太平洋を渡って中国大陸にやってきたちっぽけな砲艦とその兵士たちも民族自決の大波と排外主義の争闘のあおりを受けずにはいられない。

大陸の奥地で活動する宣教師たちを救出しようと長河の上流をさかのぼってきたサンパブロを待ちうけていた中国軍を血肉の犠牲を払ってかろうじて撃破したものの、機関室担当の兵士スティーヴ・マックイーンは、宣教師の助手キャンディス・バーゲンとのはかない恋も実らず、名誉だけを重んじる頑迷な艦長と共に、異国の伝道所で不慮の死を遂げる。

当時の国際情勢の趨勢を見通すことなく、「おらっちはどうしてこんなところに来てしまったんだ」と呟きながら息絶える海軍軍人の短すぎた生涯が哀れである。
マックイーンの親友のリチャード・アッテンボローも中国人の女給を愛して結婚までするのだが、2人ともやはり不幸な結末を迎える。マックイーンの愛した部下の船員岩松清も同様。

しかし個人としては最善を尽くして精いっぱいに生きてはいても、その生自体の消長が歴史の絶対的制約の中でがんじがらめに絡みとられ、前途に待ち構える悲劇を逃れるすべがないという状況は、この映画の中に限った話ではないのかもしれない。


さりとてという言葉が嫌いなりさりとてなすすべはなけれど 茫洋