蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

スティーヴ・マックイーンの「栄光のルマン」を見て

kawaiimuku2010-11-27


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.56

原題はただの「ル・マン」なのにどうして栄光がつくのか。この映画の中には栄光などどこを探してもないぞ。

カー気狂いのマックイーンのために作られたスピードレーサー物だが、当時のレースと会場の雰囲気が伝わって来てなかなか参考になる。

マックイーンが乗るのはポルシェ、ライヴァルが乗るのはフェラーリ。伊仏の強豪が対決した遠い昔の物語だが、ここではマシンも有機物として生きており、当節のような肥大し切った空疎なメカ競争の趣がない点に救いがある。

しかし衝突大破して普通なら死んでいるはずのマックイーンが、傷ひとつなくむっくりと起き上がり、しんねりむっつり恋人(亡きヘルガ・アンデルセン。いまでは珍しい古典的かつ端正な容貌)と情を通じているところに監督が飛び込んできて、別のポルシェに乗れと命令するなんて金輪際あり得ない話。

それでもマックイーンは平気でピットに戻って、結局ライバルを破って2位でゴールイン。心の恋人ともよろしくやれそうという大団円は、いくら映画とはいえ、ちと出来過ぎの感がある。

ミシェル・モルガンが、らしい劇伴を奏でています。


なのでという言葉が嫌いなり首のない人間を見る心地して 茫洋