蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

フェデリコ・フェリーニ監督の「道」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.70


ニノ・ロータの哀愁あふれる「ジェルソミーナ」がいつまでも耳に残る悲しい愛の物語です。なんといってもけだもののようなアンソニー・クインとノータリンで無垢なジェリエッタ・マシーナの組み合わせが絶妙。そこにファンキーな綱渡り芸人のリチャード・ベイスハートが絡んで三幅対の悲劇が完成します。

 何度見ても目を引くのがザンパノが運転するオート三輪。敗戦直後のわが国ではいたるところでこのスタイルの乗り物が使用されていましたが、この映画の中で登場するのは「故障知らずの米国製」とザンパノが自慢していました。

ザンパノの得意技は胸に巻いた鉄の鎖を吸い込んだ空気で断ち切ることですが、これって何回見てもカットはされていない。ぶち切れるのではなくブリッジされた細い部分がはずれるのではないかと想像されますが、どんどん歳をとっていく旅芸人が馬鹿の一つ覚えの力技を見せものにする情景は侘びしいものがあります。

 物語の終わりの方でザンパノに殴り殺された綱渡り芸人のイマージュがトラウマになってそれまでも頭が弱かったジェルソミーナをザンパノは見捨てるのですが、彼女が横たわっている地面だけは太陽の光が当たっていない。ザンパノはもっと明るい方へ来いよと呼びかけるのですが、彼女はココでいいと言って拒むところも印象に残ります。

自分が捨てた女の哀れさと喪ったものの大切さにはじめてきづいて夜の浜辺で嗚咽するザンパノですが、なに一晩経てば色女とよろしくやっていくに違いありません。


お母さん自閉症ってなにと尋ねている自閉症の息子 茫洋