蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

クリント・イーストウッド監督の「ダーティハリー4」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.72

1983年にクリント・イーストウッド監督が主演製作した「ダーティハリー4」では、ならず者たちに暴行された女性ソンドラ・ロックの犯人への復讐がテーマになっています。いたいけな妹ともども遊園地の回転木馬の中で強姦された彼女は、怒りの弾丸を陰部と脳天に1発ずつ撃ち込み、血の報復の輪をまさに完成させようとしたときにサンフランシスコ市警のキャラハン刑事が登場しとのたもうのです。

暴力装置としての国家権力にがんじがらめに囲繞された私たちは、もはや他者によって加えられた犯罪や暴力に対して自力で対処する自然かつ当然の行為を禁じられ、そのすべての落とし前を国家権力にゆだねてよしとしているように表向きは見えますが、ホントの本音の部分では、爬虫類の脳が、「目には目を、歯には歯を!」と絶叫しており、実際にはそうした表層の人間脳の知的な判断を爆砕して第2の犯行におよぶ例は枚挙に暇がありません。


げんにわが国でも赤穂浪士の敵討、下がっては権力による横暴と殺戮に我慢に我慢を重ねた高倉健が、自らも近代知識人としての封印を破って再びの殺戮をおかしてしまう。世界中で古来数多くの私刑が実行され、劇化されて人智の暗闇にひそむ血の報復の合理性と快感の入り混じったカタスシスを提供し、大衆の快哉を博してきたのですが、本作も比較的新しいその好例で、美しく理知的な容姿に惹かれたキャラハンは、その私刑を最終的には容認してしまいます。

彼がGo ahead, Make my day!と叫ぶと、おおかた犯人はやろうとする前にやっつけられてしまうのですが、この作品だけは例外で、やはり可憐でけなげな美女の前では、法の下での正義などどうでもよくなってしまう。この理不尽な結末を正義について語るのが大好きなサンデル教授に見せたらなんとコメントするでしょう?


 Go ahead, Make my day!ドラ猫が見毛猫にいきまく冬の昼下がり 茫洋