蝶人戯画録

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ジョン・ヒューストン監督の「アフリカの女王」をみる

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.74


第1次大戦が勃発し、その余波はアフリカの奥地まで及ぶ。宣教師の兄とともに原住民に讃美歌のオルガンをひいていたイギリスの年増の尼僧キャスリーン・ヘプバーンが、彼らの教会や住民の粗末な小屋を焼き払い捕虜にするというドイツ軍の暴虐に憤激して、「ドイツとの戦争」を決意するのだが、この愚直な唐突さがいかにも英国気質だなあと思わされる。

しかし彼女は、委細構わずしがない郵便配達夫のハンフリー・ボガードを巻きこんで、彼のちっぽけな汽船に乗りこみ、大河の急流を木の葉のように下って武装したドイツ戦艦に対峙し、おんぼろ汽船に魚雷を取りつけさせて突撃するという、考えてみれば荒唐無稽な物語である。

はじめはとんでもない話だとせせら笑っていたボガードが、こうと信じ込んだらてこでも動かぬ鉄の女の意地に引っ張り回され、行動と苦楽をともにするうちに、だんだん老いらく、が悪ければ中年同士の恋が芽生え、愛国心と愛情で一丸の炎となった男女が嵐の夜に敵艦につっこんでいく道行きを、現地ロケを敢行した巨匠ジョン・ヒューストンが余裕綽々と映像にしていくあたりが最大の見所。

はじめは処女のごとく、終わりは脱兎のごとしというのはこの映画のためにある箴言であろう。



おんなはすべてはじめは処女のごとく終わりは脱兎のごとし 茫洋