蝶人戯画録

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レヴァイン指揮メトの「ホフマン物語」をみて


音楽千夜一夜 第179夜 

オッフェンバック作曲の「ホフマン物語」は、私にはさして面白いオペラではありません。以前ヘスス・コボス指揮パリオペラ座の公演ビデオを視聴したときには怒り狂ってテレビ画面に向かって「ブウ!」を連呼し続けた私ですが、メトロポリタン管弦楽団をあのジェームズ・レヴァインが振ったライヴ映像なら見ないわけにはいきませぬ。

09年12月19日の夜、でぶでぶ太りすぎのレヴァインが指揮棒を一閃するや、かの楽団が弾き出した音楽の推進力と生命力の素晴らしさをなんと表現したらよいのでしょう。これぞオペラのドラマを力強く導いていくために必要不可欠な適切なテムポ、音の大きさと全曲の展開を見通したパースペクティブ! 脳内で快く弾むリズムが広大な空間に響き渡った瞬間、この至難の大曲の上演の成功は約されたも同然でした。

演出はバートレット・ショアですがいかにもメトらしく中庸を得たもので、基本の1幕のバーの舞台をベースに指揮者の音楽を壊さない無難な全4幕の展開です。

歌手も、詩人ホフマン役にはジョセフ・カレーハ、歌う人形オランピアにキャスリーン・キム、瀕死の歌姫アントニアにアンナ・ネトレプコ、ベネチアの娼婦ジュリエッタにエカテリーナ・グヴァノヴァ、ミューズとニクラウスにケート・リンジーという充実したラインアップで、瀕死の役どころを無視するネトレプコ、その反対に知に傾きすぎるケート・リンジー、どうということのないグヴァノヴァの歌いぶりには眉をひそめましたが、キャスリーン・キムの歌唱と演技は素晴らしい。断然彼女のこれからに注目したいと思います。

まあ演出や役者なんかどうでもよくて、これは病から復活したジェームズ・レヴァインの音楽を聴くべきオペラです。


アイーダを視聴しておるのに「震度3」 茫洋