蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

デ・シーカ監督の「ひまわり」をみて


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.99


ヴィットリオ・デ・シーカ監督がお馴染みソフィア・ローレンとマルチエロ・マストロヤンニを起用して1970年に映画化した涙なしには見られない戦争悲話の決定版です。

いきなりマンシーニの主題歌が鳴り響いて黄色い無数のひまわりがスクリーンいっぱいに咲き誇れば、にわかに悲劇の予感がたちこめ、前半の能天気な2人の熱愛振り、そして後半の深刻な愛の亀裂とラストの哀切きわまりない別れまで、名匠デ・シーカのメガフォンは冴えわたります。

いつまで待っても帰ってこない夫を尋ねてソ連まで出かけた妻でしたが、愛しの夫は彼を助けてくれた若いロシア人女性と結婚して娘までもうけていたのです。夫の顔を見るや否や目の前の列車に飛び乗って帰国してしまった妻に気持ちは痛いほど分かります。

そして今度はその夫が妻の住むミラノを尋ねるのですが、時あたかも嵐の夜で停電となる。雷が鳴り、稲光が2人の顔を照らすなかでの再会でしたが、とぎれとぎれの会話が切ない。そして妻にも息子があり、その名が夫と同じアントニオ!

お互いがまだこんなに愛し合っているのに、時間を元に戻すことの不可能を知った2人にできることは、永遠の別離。ふたたび汽車は出てゆく煙は残る。今度見送るのはソフィア・ローレンミラノ中央駅の大鉄傘の向こうの青空が切なく胸に沁みる映画史屈指の名場面です。

二つの国の二組の家族の住まいが、前半は田舎で、後半は都会の無機的なコンクリート住宅に変わってしまという演出が、「時代も恋も青春もふたたび還らず」という悲劇性をいやがうえにも強調しています。ローレン、マストロヤンニの名演に加えてリュドミラ・サベーリエワが忘れ難い味わい。


国境の彼方に二人を引き裂いて今年の夏もひまわりが咲く 茫洋