蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

マゼール、スカラ座、ゲオルギューの「椿姫」を視聴して

kawaiimuku2011-02-26



音楽千夜一夜 第181夜

07年7月に行われた公演のライヴを視聴しました。

指揮者もオケも当代一流、ヴィオレッタには死せるゲオルグ・ショルティに見出されたアンジェラ・ゲオルギューアルフレードにはラモン・ヴァルガスという組み合わせ。しかも演出はリリアーナ・カヴァーニとくれば、大向こうからは文句のつけようがないはずですが、見終わっての充実感は、遥か昔のショルティ、コベントガーデンの公演の比ではありません。われらの時代と同じように、どこかしらけて冷え込んでいる。

特にゲオルギューの進歩と成長が見られない。デビュー当時の純情可憐さが喪われたのは仕方がないとしても容貌はもちろんのこと肝心かなめの演奏の成熟振りが見られません。調子が出ないのは何故かと考えながら演技している。

かてて加えて相手役のラモンときたら、典型的な漫画から抜け出たような間抜け男ですし、ショルティの熱っぽい名演に比べるとマゼールの予定調和的な指揮も予想したとおり。カヴァーニちゃんの演出はカラフルな衣装、繊細なインテリア、3幕の瀕死のヴィオレッタに終始立ったまま演技させるなどの工夫は見られたものの、終始格別のこともなくて、結論としては大いに失望しました。

いつも思うのですが、このオペラは、恋する2人を引き裂く父親の動機が不純なのでいつも鑑賞につまずいてしまいます。自分の娘の嫁入りに差し支えるから、息子と娼婦の間をさこうというのは、ドラマとしてあまりにもお話がお粗末すぎるのではないでしょうか。しかしショルティなどの良い演奏は、こうした脚本のあほらしさを軽々と補って余りある甘い感傷にたっぷり浸らせてくれるのですが、残念ながら今回のはド壺にはまってしまったようですよ。

猿になったもう人間じゃないないと騒ぎしが尻から出たる回虫なりき 茫洋