蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ルキノ・ヴィスコンティ監督の「若者のすべて」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.106


イタリアの南部の田舎から北部の都市ミラノへ上京してきた家族の若い男たちに降りかかる運命のいたずらを名匠がぐいぐいと描きに描きつくす人生映画の傑作です。

 美しい売春婦役アニー・ジラルド。そして彼女に魅了された次兄役レナート・サルバドーリと3男役のアラン・ドロンの因縁の恋と宿命の対決が見る者をくぎ付けにします。

己を振った女と弟が熱愛していると知ったサルバドーリが、ドロンの目の前でジラルドを強姦するシーン(脱がせたパンテイーを振りかざす!)や、大嫌いなはずのサルバドーリの強引な求愛に思いとはうらはらに身体が応じてしまう場面。

それとは対照的に、うぶなドロンの純情にほだされて堅気に戻ったジラルドが、生まれて初めての恋に身を焼かれ、2人でミラノの市電に乗る「映画史上もっとも美しい」数秒間。

ドロンから兄のために身を引くと告げられたジラルドが、絶望に駆られて走り去るドウモの屋根の大俯瞰。そして「死にたくない」と叫びながら川のほとりで死んでいくジラルドの哀れな姿……。

こうやって書き出していくだけで、それらの名場面が瞼の奥で次々に甦ってくるようです。後年の重厚長大ヴィスコンティやドロンから喪われた、映画の青春時代の匂い立つような若々しさがこの1960年製造のモノクロフィルムには流れているようです。


早くリビアに行くんだあほばか戦争カメラマン 茫洋