蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

METによるトマ作曲のオペラ「ハムレット」を視聴して

♪音楽千夜一夜 第195夜


 2010年3月27日にNYのメトロポリタン歌劇場で開催されたこれまで聴いたこともないオペラでしたが、基本的にはシェークスピアの原作をベースにしたお話で、主役のハムレット役のサイモン・キーンリーサイドとオフェリア役のマルリース・ペテルセン、脇役のクローディアス王のジェームズ・モリスとガートルード王妃役のジェニファー・ラーモアが健闘して、思いがけぬ拾いものをしたような気がしました。

 指揮のルイ・ラングレという若い人も頼りなさそうな顔つきですが、それなりの劇伴を見せて、パトルシェ・コリエとモーシュ・ライザーの簡素な演出ともどもトマの音楽とドラマの劇性を力強く表現していました。アンブロワーズ・トマなどといっても誰も知らないフランス19世紀後半の音楽家ですが、これほど素晴らしいメロディを歌わせる人とは! もっと知られていい人物でしょう。

 とりわけ第4幕のオフィーリアの狂乱の場は観客の胸を締め付けるような音楽で、これを美貌のペテルセンが紅涙をしぼるようにけなげに演じて見事でした。第5幕の墓場から終幕にかけてはキーンリーサイドの独壇場で、恋人の死に涙を流したり、レアティーズと決闘して血まみれになったり、亡父の亡霊に激励されて悪い叔父さんのクローディアス王を刺し殺したり、と大活躍。最後にオフェリアの亡きがらの傍で息絶えるラストではメトの観衆の拍手喝采を呼んでいました。

 なんでもメトではおよそ1世紀ぶりの再演らしいのですが、原作とはまた違った魅力のあるオペラで、もっとあちこちで上演すれば人気がでるのではないでしょうか。


大口をあんぐり開けてテレビ見るこれぞ人生至上のよろこび 茫洋