蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ケータイ紛失余話

kawaiimuku2011-05-21



バガテルop134

五月晴れの昨日、横須賀の歯医者さんの帰りに軍港の傍の公園に咲く満開の薔薇を夢中になって撮影しているうちにバカチョン携帯を失くしてしまった。こんな下らない文明の利器のおかげで我等の生活はまっとうなユマニテとクルチュールを紛失してしまった。持つことの意義は限りなくゼロに近いが、持たないと仕事を受けられないから仕方なく持ち歩いているのだが、こいつを紛失するのはこれで四度目だろうか。二度は拾ってもらえたが、三度目はついに帰還しなかった。

昨日は、はじめのうちは落としたとは気づかなかったから、また溝板通りに戻って歯医者さんに尋ねたり、バスの運転手さんに聞いたりしたがいっこうに出てこない。仕方がないので横須賀駅前の交番に行ったが誰もいないので、京急バスの駅前詰め所に届け、ついでに細君に「余の携帯に電話するよう」に公衆電話から頼んで、横須賀線に乗って帰宅したら、なんと「拾った方から自宅に電話がった」というので、おお日本人も捨てたものではないなと私は小躍りして喜んだ。

ヤッホー! ホットラララ! ヤッホー!

これが大方の外国なら、西欧先進国であろうと、貧しい発展途上国であろうとまず戻ってはこないだろう。今回の震災の例を挙げるまでもなく、わが臣民の道義はまだまだ廃れてはいないのである。その有り難さと素晴らしさ改めて身にしみて感じるとともに、それが五度目に私がこいつを紛失する日までなんとかもちこたえてくれることを心から祈ったことだった。


山笑うケイタイ戻りしうれしさよ 茫洋