蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

西暦2012年弥生 蝶人狂歌三昧

kawaiimuku2012-03-31




ある晴れた日に  第105回


電気消え信号が消え車消え星無き空に人語絶えたり

凍水に呑まれ息絶え流されて魚に喰われし人をし思ほゆ

お前なんかに頼まれたから黙祷しているんじゃないぞ鎌倉市役所

この次の大震災では大佛様は溺れてしまうでせうと皆が囁く

来るときは来るがよかろう死ぬときは死ぬがよかろう

世界中のオーケストラをネットラジオで聴きまくる雨の朝

ロンドン、パリ、ベルリン、シカゴ、ミラノ世界の名門を制覇したブエノスアイレス生まれのユダヤ人マエストロ

プッチーニのオペラ・パレットにはあんまりたくさんの絵の具が使われていないな

ああいやらしカラヤンのレガートサーカス劇場でもそのえげつなさが忘れられなくて

一寸来いと呼ばれて行けばコジュケイの家族哉

文学修業とは美女を盥回しする事と見つけたり

腐敗堕落した文藝春秋社賞なぞによりかかることなく、一頭の孤独な犀の如く己の文学路地を歩め

恋愛小説家がいるから知事小説家強欲小説家失楽園小説家もいるのだらう

性懲りもなくこいつの禍々しい三白眼を叩き売る本屋のどえらい商魂

ギョエテは詩は機会詩だというが機会がないので詩が生まれないよ
 
イスラムの文化遺産の精髄をイスラムの人が自爆させたり

小川吉川岸川佐川宮川富川日本人は川の畔で生まれました

降る雪や平成も終わりに近き朝

人寄せにアジサイ植えるあさましさ

交合をかくにんした人とパンダの恥ずかしさ

雑巾を豊岡の街で売り歩く五十一歳の聖少女よ

傲慢な玄人が謙虚な怖れを知らぬ素人の前に膝を屈する日

君が代」は右翼的にあらず右脳的国歌とはつゆ知らざりき

右翼なら左側に気をつけよ
 
平成のすべての女性をお雛様にする川久保玲

蛙声一際大果てしなく繰り返されるくぁうごう

君は何故9月2日に消えたのか隅田川絵巻にその謎を探す

明鏡山星井寺に詣で星月井に映る名月を愛で名物力餅を食す

死んだ魚の眼を見ている死に損ないの人々

青空に向かいて微笑むイヌフグリ独りで逝きし母をぞおもふ

古を振り返ることなく歩むべし

春蘭はきっと咲いているでしょう妻と見にゆく朝比奈峠


梅開きにわかに蛙声聴こゆれば一首詠まずにおらりょうか 蝶人