蝶人戯画録

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上田正昭著「私の日本古代史上巻」を読んで

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 照る日曇る日 第570回

 

著者の長年に亘る歴史研究の総決算というべき通史の前半部である。「天皇とは何者か」、という惹句につられて読みはじめたが、その回答などどこにも書かれていないので閉口する。

こういう「売らんかな」のキャッチフレーズは、たいてい出版社の担当者が考えるらしいが、本編の内容とはうらはらの羊頭狗肉の代物が多いので要注意である。

 

しかし「倭」とは従順の意味であると聞くと、なるほどそれで現代の本邦の人々も様々な矛盾と軋轢に真正面から対抗せず、側面から中和しようとする性向もおのずと頷ける。

 

まずは大和地方に本拠を置いたヤマト政権が、次は現在の大阪・河内地方を深耕し、次いで播磨・葛城・吉備・出雲・筑紫へと西に向かって侵攻していったとする説もはなはだ興味深いものであるが、そのトバ口では丹波の英雄「玖賀耳之御笠」が、政権が派遣した丹波道主命園部・綾部・福知山辺りで激戦を繰り広げたのであろうよなあ。

 

 

 

西陽差す障がい施設の六畳間息子を託し妻と帰りぬ 蝶人