蝶人戯画録

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鎌倉雪の下の「川喜多映画記念館」を訪ねて

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茫洋物見遊山記105回&鎌倉ちょっと不思議な物語274回&闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.405

 

 

ちょうどいま開催されている大島渚追悼の映画を観るために、「川喜多映画記念館」を訪れました。

 

館内には最近亡くなった偉大な創造者の業績を示す映画作品の脚本や製作ノート、ポスターなどが所狭しと掲示されています。無人のロビーでは懐かしい「日本の夜と霧」のヴィデオが放映されていたので、しばしその激烈血を吐くような対話劇に見入ったことでした。

 

この建物は元は日本映画史に燦然たる功績を遺した川喜多長政、かしこ夫妻の旧宅でしたが、夫婦の愛娘であった和子さんとかしこさんが1993年に相次いで急逝されたあとで鎌倉市に寄付され、映画上映設備や展示室をそなえた現在のような形になって公開されたのです。

 

みぞれまじりの春の雪がほらひらと舞う広い庭、そして小高い丘に立つ古民家(夫妻たちはここに海外から遠来のスタアたちをもてなしました)を眺めていると、東宝東和の試写室でお洒落な着物姿で丁寧な挨拶をされていたかしこさん、私に向かって「いい感想文を書いてよね」と明るく笑いながら話しかけられた和子さんの在りし日の姿が懐かしく偲ばれます。

 

私はゴダールのテレビCMが縁でフランス映画社の社長の柴田駿さんと知り合ったのですが、その名伴侶が和子さんで、このお二人は1976年から開始された「バウ・シリーズ」でジャン・ヴィゴの「新学期・操行ゼロ」やジャン・ルノワールの「ピクニック」、カール・ドライヤーの「奇跡」、ベルナルド・ベルトルッチの「1900年」などの世界の傑作を次々に私たちに紹介してくださったのです。

 

茫々三〇余年。わが国の映画ファンのためにそんな意義ある仕事をなさってきた川喜多夫妻、柴田夫妻との淡い交わりを振り返りながら、私はしばらくその場に立ち尽くしていました。

 

鬼は外豆撒きながら思うこと携帯スマホの無き世に戻りたい 蝶人

 

◎本日最終日です。佐々木健個展→http://koten-navi.com/node/24959