蝶人戯画録

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県立近代美術館鎌倉で「片岡球子 創造の秘密展」を観て

 

 

茫洋物見遊山記117鎌倉ちょっと不思議な物語280バガテル-そんな私のここだけの話op.166

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今日から新緑と美術の皐月であるなあ。

 

さて片岡選手だが、日本画か油絵だか分からない、というかそんな下らない境界を突破超越して、描きたいことを描きたいように描いている自由奔放さが素晴らしい。

 

それは彼女が北斎を描いても、家康、尊氏、義満、日蓮、写楽を描いても、あるいはまたカンナ、海、火山なぞを描いてもまったく同じことであり、「わだば女のゴッホ」ではないけれど、その一気通貫ぶりが潔くて大変結構である。

 

彼女の専売特許ともなったこの単純明快な手法は、しかし会場に置かれた数多くのスケッチを眺めていると、精妙な写実と忍耐強い構造構築の模索を経てようやく確立されたやり方であると知れてくる。

 

多くの人が小学生で絵筆を放擲してしまうが、老齢になっても生命力が放散している華麗なキャンバスを眺めているうちに、私は風立ちぬいざ生きめやもという例のフレーズが脳裏に立ちあがってくるのを覚えた。

 

なお本展は来る5月26日まで開催されているが、地主の鶴岡八幡宮がこの天下の名建築兼名美術館を立ち退かせようとしている不穏かつ陰険な動きに断固反対せざるをえない。

 

なおなお本日鎌倉がユネスコ遺産に登録されないことが明らかになったが、これは至極当然のこと。「武家の古都」などと偉そうに唱えても当地には鎌倉時代の遺産など大佛と鐘くらいしかないのだから実体がまるでない。これで少しは観光客が減って静かな寂れた地方都市になってくれればいいのだが。

 

 

   時はいま皐月の若葉の煌めきにいざ生きめやもと鶯が鳴く 蝶人