蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

ジェームズ・ブルックス監督の「愛と追憶の日々」をみて

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闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.611

 

ジャック・ニコルソンがなんと宇宙飛行士役でシャーリー・マックレーンと悪乗りして丁々発止、嫌み寸前の名演怪演を繰り広げるのが見ものの映画だが、マクレーンの娘役のデブラ・ウインガーが3人の子供を抱えて、まだ若いのにガンで亡くなってしまうという悲しいお話。女房をさしおいてヒョロヒョロ若い女に手を出す夫役をジェフ・ダニエルズが好演している。

 

デブラ・ウインガーはいよいよいけなくなって病院で愛する息子(なぜか娘はいない)に別れの言葉をかけるのだが、本当は母親を愛しているけれど、反抗期で親に反発して無視している長男は、こんな人世の大事な瞬間なのにソッポをむいて突っ張っているのが、まるで幼い時の私のようで微笑ましくも悲しい。

 

息子に対して、デブラは「君は本当は私を愛しながら、わざとそんな不遜な態度を取ったことを、私が死んでから悲しみとともに悔いるだろう。しかしそんな君のことを、私は今許すと言ってあげるわ」とコメントして別れを告げるのだが、先回りしてそんな余計なことを言う必要はまったくなかった。

 

母に死なれた息子は、その時が来れば、自分からその折りの不遜な態度を死ぬほど後悔して泣くのだから。

 

なにゆえにものに怯えて噛みつくや被災地からやって来た次郎 蝶人