蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

美神たちの黄昏 第一夜~西暦2014年弥生蝶人花鳥風月狂歌三昧

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ある晴れた日に第215

 

 

野に山に花咲く乙女ら耀えど疾く陽は墜ちてペルセポネーの黄昏

 

儂といい己といい手前といい自分というときの私とは何?

 

僕って誰? 九十過ぎても僕と言っていた吉田秀和

 

自閉症の息子が「自閉症って何?」と聞く私が「私とは何?」と問うように

 

ただ単に整髪のために行くのではない月一で息子と通う小林理髪店

 

横須賀駅より大量の春風運ぶバス

 

我こそは愚者中の愚者よ万愚節

 

月末に追い詰められ人は死ぬ

 

幽玄の能の世界に遊ぶ時わが霊魂も虚空に彷徨う

 

全国の学友諸君お元気ですか相変わらず馬鹿やっていますかな

 

主語動詞さだかならねど助動詞に強迫を置く男であった

 

書きあげし手紙をそのたびこれでよいかとわれに聞く妻

 

大根にきんぴらごぼうにバラ肉を君と一緒に生協に買いに行く

 

そなたこそ夜空に輝く星なれどわれ人知れず真昼に瞬く

 

群がる敵をバッタバッタと斬り倒しおのれこそは無敵と勘違いしてるぜ

 

必殺の武器の引き金に手をかけて全世界を敵に回すならず者あわれ

 

中国北朝鮮日本アメリカロシアみな暗けれどわが心に如くはなし

 

脳内に繁殖したる大思想蒲柳の体と共に崩れ落ちたり

 

みんな私が悪いのと繰り返す女みんなの中に私のことも入っているような

 

もうそろそろ帰って来てもいいのではないかあの日南に逃げた人たち

 

糞を放る時間まで精密に設定すリーマンの掟にして現代の奴脾のはじまり

 

臨終に小鳩くるみ音羽ゆりかご会なら許そうが「川の流れのように」なんかやめてけれ

 

よろこびも悲しみも疾く来たりかつて疾く去りぬさまざまの夢浮かびては消えしこの家

 

なにゆえにお父さんお母さんと呼んでいたのかお父ちゃんお母ちゃんと呼んだことなし

 

おそらくは誰にも知られず身罷らむかのガラパゴスの大亀の如く

 

別るとは少し死ぬることと覚えしがこの身を刻む痛みなりけり

 

いずこより来たりし蛇かいくたびも車に轢かれて長々と横たう

 

 

なにゆえに午後2時半に夕刊を配るいくらなんでも早すぎないか 蝶人