蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

美神たちの黄昏 序夜~西暦2014年弥生蝶人花鳥風月狂歌三昧

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ある晴れた日に第214回

 

 

うらうらと光のどけき春の朝アフロディーテは降り立ちにけり

 

愛する人が死んだ時ワンワン泣く人は良い人なり そうではないか

 

テレビではなかなか良いことをいう豚男もそっと減量しておくれでないか

 

テロップが出るより早く「尾瀬コウホネです」という 我が家の長男の得意技なり

 

鎌倉の東南の平屋の居間にひとりいて朝から晩まで本などを読む

 

「ネコ、ネコよ」と妻に注意されて背筋を伸ばすタマよ君のことではない

 

ハグしても返してこない耕君だけど父を愛していないわけじゃない

 

オサムシタマムシコガネムシさえ見ないがミチアンナイはまだいるよ

 

幼稚園でスキプできず小学校でオクラハマミキサーが踊れないところに不幸がはじまった

 

横須賀線の踏切の音はイ短調小田急嬰ヘ長調と教えてくれしは自閉症の長男

 

こんにちは 坂道行き交う人々が必ず挨拶するという尾道へ行きたし

 

ネットでも毎日歌壇に投稿できるのだが、ミニストップには毎日新聞を置いていないのだ

 

発達障碍などとご大層な名前はつけても原因などさっぱり分からず

 

おばあちゃんが亡くなってようやく揚げ物が作れるようになりましたと妻がいう

 

吾よりも年上の人は哀しいが年下の人はもっと哀しい

 

我に見えぬ後ろ姿の猫背が父にそっくりと妻がいう

 

謙譲の美徳てふ言葉死語となりそういう人も絶滅したり

 

この短歌いまだ歌わずいざ歌えわが心の中の短歌よ

 

今日ひと日わが生みしものただひとつ五七五の一首の歌なり

 

本当の僕の気持ちは五七五七七の奥底に沈んでいる

 

ああいくいくいくうこれがいちばんいいのよなぞとおめきつつ昇天したり

 

新聞が来れば死亡欄に目をやりて俺はまだ生きているぞと確かめる

 

福祉施設で働く人は神様仏様深く頭を下げて脱帽す

 

アナ恥ずかし五輪開催の資格なし殴って蹴っていじめるニッポン

 

我をリストラせし人物をリストラしたる人物がリストラされたり

 

今泣くか今泣くかとアップで迫るテレビカメラのあや憎し

 

受給証の区分判定上がりたれば施設の人々はつかに潤う

 

新聞の連載小説のうそくさい物語の展開のうすらさむさよ

 

ミニストップで68円で買うてきた青森リンゴ2切れを夫婦で食べる夕かな

 

喰うては寝るされど悪心なき重度の障碍者穏やかな顔で椅子に座りき

 

さっと拳銃をさっと引きぬき撃ち放てばDICの色見本なり

 

「と、びっくり仰天」「そこでおそるおそるのぞいてみるとお」言い差して止める日本語は気持ち悪い

 

君のお陰でどんどん歌が生まれるしょうぐあい者の家族はありがたきかな

 

介護するも介護されるも月月火水木金金

 

去年今年生きてしあればそれでよし

 

冬ざれやヤマトシジミの翅の藍

 

ハグすれどハグを返さぬそれが自閉症者の耕君さ

 

われもまた新聞の死亡欄から読む人となりにけり

 

四軒に一軒の空き家を順繰りに見て歩く

 

遠からず日本列島1億2600万の墓標にて埋まるべし

 

世の中はなべてつまらぬものにしてわれひとともにアホ馬鹿音頭

 

 

なにゆえに消費税をまた上げる民草の生きる力をまた奪うため 蝶人