蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

美神たちの黄昏 第三夜~西暦2014年弥生蝶人花鳥風月狂歌三昧

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ある晴れた日に第217

 

 

「かわかわの耕ちゃん」と言ってみる小学5年の君に会えるかと思って

 

「かわかわのムクちゃん」と呼んでみる02年に死んだ君に会えるかと思って

 

除草剤を散布された後の土地は茶色く汚染された草一本はえぬ不毛の土地だ

 

われついに衛生無害の男となり果てて黄昏の街をさまよう

 

コンビニのレジ前の西瓜姿消し桃と葡萄と梨並ぶ朝

 

茶葉の陰で茶色の裏翅を立てるミドリシジミお前のそのうるわしき翠を見せよ

 

てのひらの中で激しくもがくコチャバネセセリよいま逃がしてやるそんなに焦るな

 

遥々と遠き国より帰りたりほんの短き午睡より覚めて

 

ニコチンのかたまりのごとき男いてわれの隣で毒素を放つ

 

午後五時に酒場の仕事でバスを待つ美貌の寡婦の足の細さよ

 

 朝にはきりりと咲き夕べにはうなだれる朝顔のその姿よ何かに似ている

 

いっさいの防御を捨てたゼロ戦の設計思想は恐ろし哀し

 

グスタフ・レオンハルトのブクステフーデ懐かしき嗚呼油蝉の断末魔

 

真夜中に枕元の電話が鳴り響くよもしや西本町ののぶいちゃんではあるまいか

 

どうしてもジャムのついたスプーンを舐めずにはいられない私のケチな性分

 

前田敦子大島優子道端ジェシ冨永愛森泉杏みな私とは関係が無いにっぽんチャチャチャ

 

樹下にしていざ蝉声を浴びるべし

 

朝顔は二階からアンダンテ・カンタービレで咲き下る

 

世を呪い我が身を呪うか夜の蝉

 

地にもがく油蝉の体液を啜るな雀蜂よ

 

欲望は消えてゆくなり行き合いの空

 

赤ちゃんよもっと母親の乳房に縋りつけ

 

横須賀の歯医者名人岸本先生わが第二臼歯に匙を投げるな

 

マスコミを喜ばせるごとく今日も事件が起こっている

 

邦人が大事故の犠牲になっていなければ疾く忘れ去るこの国のならわし

 

この夏は初出場の公立高校がないのでどこも応援しない高校野球

 

たまさかにものに怯えて噛みつくこともあるのです被災地からやって来た犬次郎

 

よろこびもかなしみもつぎつぎにはしりすぎるいまさへよければそれでよろしと

 

 

なにゆえに過去の記憶がまたよみがえるあらゆる記憶を蓄積し続ける君 蝶人