蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

美神たちの黄昏 第十夜~西暦2014年弥生蝶人花鳥風月狂歌三昧

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ある晴れた日に第226回

 

 

「いやぁ短歌っていいですねえ」と水野晴郎さんのように言ってみる

 

苔がむすただ一瞬の隙もなく古希爺どもの石は転がる

 

糟糠の妻の水着は赤か青か三度迷いて赤を推したり

 

これだけは成熟したくないと思うことあり胸のうち

 

灰色の空より狒狒のごとく落ちてくる霏霏として降りつづく雪

 

如月の雪降りしきる大通り素足剥き出し女子高生が行く

 

凶悪犯らしき顔は二、三人指名手配の十三のうち

 

鎌倉の私立二小のガードレール白菊の花が飾られていて

 

そこのけそこのけ王様が通る我こそは右翼の国家主義者の最高権力者

 

どのような乱行沙汰を仕出かそうととどのつまりは想定内予定調和劇

 

つきつめたうえで極論言うならば写真はモノクロ音楽はモノラル

 

難病物と刑事物はもうやめなさいなんのカタルシシにもならないので

 

数知れぬ勇者が競って押しあげてそのてっぺんを金メダルという

 

大それた罪を犯して謝らぬ愚かな子にもみな両親はある

 

「殺すのは誰でも良かった」と嘯いているあの子の親が私だったら

 

どのような凶悪犯人にも親ありて息子に代わりて血の涙流す

 

トイレから出てきた妻とハイタッチ今夜も交す午前零時の安眠儀式

 

邪悪なる者どもによって日夜激しく汚染されつつあるこの世界よ

 

お隣の子供は可愛いが五月蠅うちの子供もさぞやしからむ

 

寂しくて空しき日には裏庭の土を穿ちて歌の井戸掘る

 

勤労奉仕てふ古き言葉を思いつつ雪掻きしたり向こう三軒両隣

 

雪庭に眠る愛犬引き具して本年も二月は疾く遠ざかる

 

突出せるいぼ痔を切るべきか切らざるべきか一〇キロを抱え込んだ洗濯機が呻いている

 

特攻隊の命中率は0.9%敵鑑撃沈率は0.08%てふ数字を知ってから泣くべきものを

 

一番嬉しかったのはアリストテレスが問いかける三角形の定義に正しく答えられた時

 

親知らずを抜くべきか否かとぐろを巻いた蝮が飛びつこうとしている

 

誰からも介護される当てのない君が日々黙々と母を介護す

 

介護される親は良けれど介護する子が介護される当て無きが悲しき

 

小止みなく霏霏として降る雪の片障がいの吾子もまた天の贈物

 

 

なにゆえに神戸の街はハナミズキだらけ安藤忠雄がそう決めたから 蝶人