「山本周五郎長編小説全集」第13巻を読んで
照る日曇る日第709回
黒澤監督によって映画化された「五辦の椿」と「山彦乙女」から構成されている。
「五辦の椿」は薬種屋「むさし屋」の一人娘しのが実の父母、母と性的交渉のあった男たちを次々に簪で刺殺していく復讐譚であるが、いかに薄情な父母であるとはいえ、またいかに育ての父親への恩愛に感謝しているとはいえ、自分にもその血が流れている淫蕩な母親とその交渉相手をあやめていくのか、いくら考えても理由が分からない。
黒澤映画で香川京子がどんどん男を殺していくときにも妙な話だと思ったのだが、原作を読んでその謎が一層深まった。
もう1冊の「山彦乙女」は読み始めてまもなく、安倍半之助という主人公の名前が戦後最悪最低の宰相の苗字をどうしても想起させるので、続きを読む意欲が萎えてしまった。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。山本周五郎先生にはとんだとばっちりでお気の毒だが、もう二度と手に取ることはあるまい。
なにゆえに「山彦乙女」を読まないか坊主憎けりゃ袈裟まで憎くて 蝶人