蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

夢の中で~「これでも詩かよ」第85番

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ある晴れた日に第241回

 

 

自転車に乗ってどんどん進んでいく。

どこまで行っても道路に車はない。

道路も周囲も行けども行けども無人である。

 

午前10時の太陽は、17歳の少年の欲望のようにぎらついている。

走りに走り続けて正午になった。

はらっぱの向こうに一軒屋がみえてきた。

 

やれやれあそこで一休みと思って近ずくと、ここにも人気はなかった。

小さな膀胱がはち切れそうに膨れ上がっている。

やむえず平屋の1間に入ると真ん中に囲炉裏の灰穴があったので、そこで用を足した。

 

水道の水で乾き切った喉を潤し、なにか食べるものはないかと探したが、なにもなかった。

もう何十年も前に見捨てられた廃屋なのに、

水道が使えるというのは不思議だった。

 

ようやく元気を取り戻したので、再び元の道を南に向かって進む。

行けども行けども、何もない。

行けども行けども、誰にも会わない。

 

やがて陽が沈み、空がゆっくりと黄昏れると

道はふっつりと消え去り、

深い暗闇の底に私は取り残された。

 

 

なにゆえに日記に符牒をつけたるや知る人ぞ知る荷風の房事 蝶人