蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

真っ赤な果実のビタミーナ再び~「これでも詩かよ」第87番

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ある晴れた日に第243回

 

 

去年の夏、突如私は詩を書くのが面白くなり、

忘れもしない7月11日に、詩一篇が生まれた。

それは熱い夏の日差しの中で、あっという間に出来てしまった。

 

            *

 

「真っ赤な果実のビタミーナ」

 

「真っ赤な果実のビタミーナ、ビタミンCたっぷり」 
「おいしく摂れるビタミンC450mg」 
 と、そのボトルの包装ラベルには書かれている。

 

ブドウ、グレープフルーツ、イチゴ、アセロララズベリー、ブラックカラント、トマトなどなど、いろんな果実がいっぱい入ったこの真っ赤な飲み物に、

いま私は夢中なんだ。

 

私の眼を射るその独特の赤は、

「ベサメ・ムーチョ」を絶唱する藤沢嵐子

頸動脈のように欲情に燃えあがり、 


私の喉を潤すその味は、

夜な夜な千夜一夜の物語を語り続けるシェヘラザード姫のつばのように、

こってりと甘い。 

 

西暦2003年7月8日の昼下がり。 
ニイニイゼミが狂ったように鳴き始めた新宿南口の青空の下で、

私は1本150円の「真っ赤な果実のビタミーナ」を飲む。 


広場の真ん中で立ったまま、

私はアラビアのロレンスのように、

何本も何本も、とっかえひっかえ次々に飲み干す。 

 

甘露甘露、真っ赤な果実のビタミーナ! 
わが愛しき真っ赤な果実のビタミーナちゃん! 
もう駄目だ。もう止められない。 Oh Yeah! 私は君に夢中なんだ。 

 

              *

 

それからおよそ1年が経ち、

私は今日も新宿の街をうろつきながら

「真っ赤な果実のビタミーナ」を必死に探してる。

 

さらに鎌倉や逗子や横須賀の駅周辺の自販機に、

「真っ赤な果実のビタミーナ」がないかと血眼で尋ね歩いているのだが、

どこに消えたか1本もない。

 

ああ、真っ赤な果実のビタミーナ!

喉にとろける甘露のようなビタミーナ!

何杯も何杯も飲まずにはいられぬビタミーナ!

 

真夏の太陽の下で霊感を与え、

私を詩人の卵にしてくれた真っ赤な果実のビタミーナちゃん!

お願いだから、そのうるわしい姿をもう一度あらわしておくれ。

 

 

なにゆえに参戦理由を探してる戦争はできないするなの掟を破って 蝶人