蝶人戯画録

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国立新美術館を見る


勝手に東京建築観光・第8回
 
黒川紀章が設計した新しい国立美術館を訪れ、ついでにモネ展を見物してきた。

まず美術館だが、さすが人騒がせな黒川らしくダイナミックな外装である。ガラスが丸みを帯びて大きく波打っていた。

鉄とコンクリとガラスという冷徹な素材に、なんとかやりくり算段して温和性、運動性、そしていくばくかのヒューマニティを盛り込もうとする黒川の意図はよく分かる。

内部に作られた逆キノコ状の漏斗も無機的な内装に一定程度の植物性をもたらす効果を上げている。

が、褒められるのはここまで。それなりに工夫されたスケルトンが内包するリフィルには、いたずらに空虚な大空間が広がるのみだ。

しかも区画整理があまりにも機械的で、入場者の入退場の便などいっさい考慮されていない。とくにエントランスやトイレやクロークの狭さは言語道断。国内最大規模の貸ホールなのに、これで3階の全ホールが使用された暁には(そんなことは絶対にないだろうが)会場内は大混乱するであろう。

展示会場に入ると、その導線と照明が良くない。モネ展など入場したその次の空間の処理が悪いから、客の流れが混雑を起こしている。中学や高校の文化祭以下のレイアウトである。

モネの「睡蓮」の大作の表面がガラスで覆われており、そこに普通のライトを当てているから、客が画面を覗き込もうとすると自分の顔が見える。

きっとありきたりの印象派の展覧会だとつまらないので、最近復活してきた「モノ派アヴァンギャルド展」風に演出したのであろう!? 

それやこれやでともかく国内最低の美術館のひとつであることは間違いがない。


しかしたったひとつだけこの美術館に見所があった。それは本館左側の別館の前に安置された旧陸軍歩兵第三連隊のレンガの入り口の一部である。

思えばあの昭和11年の2.26事件の首謀者のひとり安藤輝三第6中隊長は、兵を率いてこの場所で決起し、他の2名の士官とともに反乱罪で死刑に処せられたのであった。

驚いたことに、既成秩序に反逆した者たちの「遺物」としてのレンガの断片は、黒川のうそすそとしたガラス細工の虚構の幻影をすべてをぶちのめす、異様なまでの存在感に満ちていた。(写真)