蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

見捨てられた墓地

鎌倉ちょっと不思議な物語100回

ここは私が住んでいる十二所のガソリンスタンドがある交差点の、すぐ袂にある小さな墓地です。鎌倉駅から八景方面のバスに乗って、まっすぐ行くと鎌倉霊園、右に曲がると鎌倉逗子ハイランドという交通の要地なのに、誰も見向きもしないで通り過ぎます。

しかしここは鎌倉時代にはすぐそばの大慈寺の境内でありました。大慈寺は八幡宮寺、勝長寿院、永福寺と並ぶ鎌倉四大聖地のひとつで三代将軍実朝が君恩父徳に報謝するために、つまり天皇と頼朝公に感謝するために建暦2年1212年に造営がはじまりました。

十二所のバス停の近くに明王院というこれも鎌倉時代創建の古いお寺がありますが、この明王院の東一帯がすべて大慈寺で、前にも書きましたように現在カトリックの修道院になっている小高い丘陵も往時の七堂伽藍が聳えておりました。

大慈寺の木造の大仏を安置した丈六堂は江戸時代まではこの付近にあり、その仏頭は私が最近住職と和解した光触寺に隠されておりますが、その丈六堂が存続していた頃の面影をかろうじてこの墓地だけが伝えているのです。

ああそれなのに、先日この聖なる地に進入し、1基の仏塔を倒した悪いやつがいるのは許せません。

無残やな地べたに倒れし墓石ありげに凄まじき鬼の仕業よ 亡羊