蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

スタンリー・キューブリックの「2001年宇宙の旅」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.46

スタンリー・キューブリックアーサー・C・クラークとの協働脚本でプロデューサー、特殊撮影監督を兼ねて製作したこの映画は、何回見ても難解な作品です。

猿たちの前に突如出現した巨大なモノリスという石碑だか鉄板だかは一体何なのか。400年前には地球にあったものが、今度は月で発見されたのはどういう訳か。そのモノリスの前で記念撮影をしようとして頭痛に襲われた科学者たちはその後どうなったのか。(そういえば新宿副都心にモノリスというビルがあるなあ)

また月で発見され、木星に向かって強烈な磁力を放つとかいうこのモノリスは生命体なのか。そのモノリスがどうして木星付近に現れて惑星直立の仲間になっているのか。もしかするとこの鉄板野郎こそは人類、いな宇宙創造の原器のような存在なのかもしれません。

人類初の木星探査船に備え付けられたIBMならぬHALコンピューターがどうして人知を凌ぐ知性や感情を身につけ探検隊のスタッフを殺戮したり、追放しようとしたのかも謎に包まれています。
HALをやっつけようとした隊長は最後にどうなったのか。末期の目に焼きついた夕焼け小焼けのカラースペクトラムは一体何なのか。小型捜査船が安置された白い部屋の出来事は一体何を意味するのか。そうして冒頭で鳴らされたカラヤン指揮ウイーン・フィルによるR・シュトラウスの「ツアラストラかく語りき」と共に出現した巨大な赤ん坊が象徴するものは何? もしかして探査船のボーマン船長のうつし世の仮姿?

謎は謎を呼んでこのままではとうてい終わりそうにない映画を締めるのはやはり音楽でした。動物の骨が武器となることを知った猿が大空に放り投げた骨片が落ちてくるとそれが同じ形をした宇宙船に変わり突如ヨハン・シュトラウスの「美しく青きドナウ」が優雅に奏されるシーンは映画史に残る名場面でしょう。疾走する宇宙船のBGMに使われているリゲティの音楽も素晴らしい。ハーディー・エイミスのデザインによる宇宙服も美しさの限りです。


N響の下らぬ演奏に熱狂す見知らぬ人のうらやましくもあるかな 茫洋