蝶人戯画録

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ジョン・スタージェス監督の「大脱走」を観る

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.50

監督ジョン・スタージェスが、その持てる実力を遺憾なく発揮したハリウッドの超大作です。

エルマー・バーンスタインのテーマ音楽で有名な1963年制作のこの映画。スティーヴ・マックイーンがナチの収容所から脱走して見事オートバイで中立国のスイスに辿りつくメデタシメデタシの話と記憶していたらとんでもない。マックイーンは確かに独軍から奪ったオートバイで国境まで爆走するのだが、緩衝地帯のスイス側に張り巡らされた鉄条網の傍であえなくゲスタポにつかまってしまうのだった。人の記憶はともかく私のそれがいちばん危ういことに改めて気がつかされた映画だった。

これも忘れていたことだが、この脱走話はすべて実話で、収容所からなんと3本の地下道を掘って英米露など250名の連合軍兵士を脱出させ、敵国ドイツの後方を攪乱しようという計画だったというから驚く。脱走すればすぐ祖国などという甘い話ではなくて、塀の外に出てからのほうがはるかに危険な任務なのだ。

お得意のオートバイを駆る反逆児マックイーンも大活躍だが、その計画のプランニングと指揮を担当した剛毅なリーダー役バートレット少佐を演じるリチャード・アッテンボローや暗所恐怖症ながら懸命にトンネルを掘り続けるポーランド人役のチャールズ・ブロンソン、盲目の同僚を助けながらスイス国境近くまで敵飛行機で逃走したヘンドリー大尉のジェームズ・ガーナーなどの好演も見逃せない。

実際に脱出に成功したのは76名だったそうだが、そのうちバートレット少佐など50名はゲシュタポによってつかまり、銃殺されてしまうのだが、残りの15名はその後どうなったのだろう。その一部は映画の中でも描かれているのだが非常に気になります。


凡庸の価値を知らない人は非凡の価値も理解できない 茫洋