蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

フリッツ・ラング監督の「メトロポリス」をみて


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.109

全体の1/4が失われたフィルムを最新技術で補って完成させた2時間ヴァージョンで鑑賞しましたが、アールデコの尖ったデザインを基調にした各ショットの造形美がことのほか見事で、これは動く美術品のような作品です。

地上には一握りの権力者、地下には大量の労働者という極端な階層社会の構図は、ちょうどいま亀裂が走って崩壊に近づいたカダフィ大佐独裁のリビアを思わせます。結局カダフィ大佐役の権力者フレーダーセンが、息子フレーダーの仲介で労働者代表と握手するところでこの映画は大団円を迎えるのですが、冒頭と結尾で特筆大書されている「頭脳と手を結ぶのは心である」というスローガンが、既成権力と大衆の中途半端な妥協の賛美で終わるようで、じつにけったくそ悪いフィナーレです。

この映画が公開されたのは1927年。「黄金の20年代」が終わり、ナチ党が着々と地歩を固めつつあった左右拮抗の時代です。翌々年には世界恐慌が起こって1933年にはヒトラーが政権を奪取するのですが、ラングが夢見たのは第2次ワイマール共和国時代のかりそめの「ヒンデンブルクの平和」だったのでしょう。

現実は映画を超えて、フレーダーセンの跡を継いだフレーダーがヒトラーになって、民衆の歓呼のうちにファシズムを鼓吹するのですが、そうと知ったラングは1934年に故国を逃亡したのでした。


天に向かって唾したが天はなんにも言わなんだ 茫洋


お知らせ→「佐々木 健 スティル ライブ展」 明日まで。
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