蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

カール・ドライヤー監督の「奇跡」をみて

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.110


母であり妻であり嫁であり一家の太陽のような役割を果たしていた女性が、3番目の子供(しかも待望されていた男児!)の出産に失敗して胎児もろとも死んでしまう。

いよいよ棺に釘を打とうとしていたまさにその時、行方不明になっていた弟が帰ってきて周りのものの信仰の薄さを糾弾しながらキリストに代わって「インガよ起きなさい」と命じると、奇跡が起こる。

そんな粗筋の1955年製作のデンマーク映画の中に、なんという神聖で敬虔で高貴なものがいっぱい詰まっていることだろう。篤信の素晴らしさをこれほど自然に、美しく、感動的に描いた映画はないだろう。小さな奇跡は毎日至るところで起こっている、と説くドライヤーの信念が巧まずしてつくった、抹香くささの微塵も無い真正の宗教映画である。


   本当に神を信じて信じきれば奇蹟は起こるとドライヤーは信じる 茫洋