蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

「ジャクリーヌ・デュプレEMI全集」を聴いて

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音楽千夜一夜第330回

 

 

哀れ大資本のワーナーに吸収された、いまはなき名門EMIから発売された17枚組CDです。

 

デュプレのチェロは生命力に満ち、鳴るべきところを隆々と鳴らす思いっ切りの良さで、どこかピアノのアルゲリッチを思わせるところがあります。

 

しかし彼女の生涯の不幸はダニエイル・バレンボイムという浮気男に惚れてしまったことで、改宗までしてこんな不実なユダヤ教徒に嫁入りせずに、彼女を愛していたスチィーヴン・コヴァセヴィチと一緒になっていたら、彼女のあの不幸な後半生にもいくばくかの光明と救いがあったのかもしれません。

 

この全集の演奏のピアニストの大半はバレンボイムとのものですが、そんな思いで聴くスチィーヴンとのデュオによるベートーヴェンの3番と5番のソナタの味は、まことに甘く切ないものがあります。

 

 

なにゆえに全ての時計広告が10時10分を指している私ならおやつの3時にするのだが 蝶人