蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

小嵐九八郎著「我れ、美に殉ず」を読んで

 

 

照る日曇る日第714回

 

 

久隅守景、英一蝶、伊藤若冲、浦上玉堂というある意味では江戸時代を代表する

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四人の画家の創作的伝記小説です。

 

江戸時代の社会と文化、日本美術史、そして所謂奇想の美術家について広く深く研究した成果の上に、それぞれの画家にいわば「なり替わって」、それぞれの数奇な運命を生き直し、創造の翼に乗って大胆かつ苦心惨憺、想像力を駆使した痕跡が筆跡も生々しくかつ荒あらしく一行毎に刻まれています。

 

なにがなんでも果敢な美の探究者の心の暗闇に推参してその奥儀を極めようとする著者の不滅のダイナモ

 

はじめはこれぞ著者専売特許のエラン・ヴィタールと欣喜雀躍しつつ読んでいましたが、おいらの老眼は、されどページを繰るごとにその猛烈さとエグさ、野蛮さに辟易し、かつ消耗の一途をたどり、ついには「もういい加減にしてくれえ!」と叫びたくなってしまうのでした。

 

されど、この老いも衰えも知らぬ不倒不屈の全身情熱小説家魂こそ、良きにつけ悪しきにつけこの作家の最大の武器なのでしょう。

 

永遠の文学プロレタリアート万歳! 二十二世紀は君たちのモノだ。

 

 

なにゆえに老残の身を焦がすのか山顛に小さき旗立てるため 蝶人