蝶人戯画録

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ジョン・ウー監督「男たちの挽歌」を呆然と眺める


照る日曇る日第167回

平成万年失業者じゃによって今月も仕事にあぶれているものだから、BSで放送されていた「男たちの挽歌」という香港映画を3本も見てしまった。

チョウ・ユンファを一躍スターダムに押し上げたホンコン製フィルム・ノワールだそうだが、あらすじもシナリオも演出もあらばこそ、善玉悪玉、素人ギャング警察男女が近親組織国籍入り乱れて弾丸銃弾手榴弾戦車まで登場して弾丸火の球血しぶき雨あられ、やたら人を殺すので辟易しました。

第1作ではやくもかっこいいチョウ・ユンファが殺されてしまうので、2作目では急遽彼そっくりの兄弟がニューヨークから香港に帰還して大活躍するいいかげんさには驚いたが、ベトナム戦争最後の日を舞台にした3作目には、ヒロインの元恋人役の組織のカンボジア人のボス役に時任三郎が登場して中国語をしゃべるのでまたまた驚く。

実は片親が日本人だとあとで種明かしがあるが、中国復帰前の香港を舞台に動乱のアジアのあらぶれた雰囲気を随所にまき散らしたのが歴史的なお手柄だろうか。

欧米そして日本など先進国の映画が精力を喪失していちはやくげいじゅつ的反抗の狼煙を上げたのがこの香港、そして台湾、中国西安グルジアなどだったが、あれから数十年、世界映画の根拠地は最終的に消滅し、全世界が終焉化じゃなくて周縁化されたような気がする。いやさ、映画はとっくの昔に終わっていたのかも知れないと、この暗澹たる映画の底なしの闇、退嬰と滅亡の断末魔を垣間見ながらひそかに思ったことであった。


♪ピチャピチャと真夜中に水など飲んでいた我が家のムクを思い出すかな 茫洋