蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

松本健一著「増補出口王仁三郎」を読んで

kawaiimuku2012-10-25



照る日曇る日第545回

寅さん「屹立する最後のカリスマ」なんちって品性下劣な言葉を使うなよ。んで、もう一人のカリスマは天皇の軍隊を農民の革命軍でひっくりけえして国民の国家をでっちあげようとした北一輝だって書いてるけど、それを言うなら、大衆の下衆のどん底から這い上がって銀幕の大スターに成り上がったおらっちの方が、よっぽどカリスマじゃあねえのかい」

おいちゃん「寅さん、まあまあそう怒るなよ。おいらお団子を売ってるだけでまるっきり学はないけど、この本で「日本思想史の基軸は近代主義とナショナリズムと日本原理主義の3本柱だ」と書いてるのはちょいと面白かったね。前の2つはお互いに闘争を続けてきたわけだけど、それらの基底に日本の神、郷土、先祖、血縁、自然を総括する「原郷(パトリ)」への愛情があり、この日本原理主義が、あるときは天皇制国家主義と同調したり背馳する契機があるというんだ」

さくら「そんでこの日本原理主義に依拠し、出口なお(変性男子)を教組、出口王仁三郎(変性女子)をカリスマ宣教師とする大本教は、近代主義やナショナリズムから落ちこぼれ、過去の伝統や因習にしばられた大衆の怨嗟を解き放ち、「もう一つの天皇制」を目指したのだというのよね」

ひろし「伊勢神道系のアマテラスを主神とする明治国家の天皇制絶対主義に対抗して山陰、裏日本に押し込められていた出雲系のスサノオを「丑寅(うしとら)の金神(こんじん)」として賦活させ、日本原理主義革命をやらかそうとしたんだね」

タコ社長「いくら橋の下とか小さな泉を探したって肝心の天皇や大衆の実体がエーテル化した平成の御代では、悔しいけどもう寅さん以上のカリスマは出っこねえだろうなあ」

おばちゃん「みんな何をぐだぐだ屁理屈ばかり言ってるんだい。この本の駄目なところはね、肝心要の出口なをと王仁三郎の郷里の丹波の風土について触れてないことだね。「弁当忘れても傘わするな」ということわざ通り、晴陰ただならぬあの地の不安定な気候が、暗欝と情動爆発が瞬時に交錯する宗教革命的精神風土を生みだしたことが、インテリさんたちにはまるで分かってないようだね。

御前様「こりゃあ困ったあ。大衆の原像おばさんのつねさんに1本取られてしもうたあ」


神仏も天皇陛下も無用ですこの世を私が生き抜くために 蝶人