蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

美神たちの黄昏 第七夜~西暦2014年弥生蝶人花鳥風月狂歌三昧

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ある晴れた日に221

 

 

家中のお皿を全部叩き割っちゃえそれで君の気が済むなら

 

カレンダーは貰う物と思いしが買う物となりき会社辞めてから

 

1966年英国で作られた薔薇プリンセスミチコは優雅なピンク

 

棟梁の槌音高らかに鳴り響きわれら第三次産業従業者のいかがわしさよ

 

製薬会社の整然とした敷地だが労働スペースは余りにも狭い

 

履歴書でもないのに学歴を書けと迫りくるSNSのおこがましさよ

 

一等でもビリでもいいいつでも命懸けで走っている君が好きだ

 

亡き父の面影残すキャロライン聖林スタアのごとく迎えられおり

 

宇宙には暗黒物質があると聞きわが魂の暗闇をおもう

 

いかにも凶悪犯らしき顔はわずか二、三人重要指名手配されし一三名のうち

 

ターナーがいちばん好きなヴァーミリオン、ネービーブルー、クロームイエロー

 

ターナーがパレットの海に塗りたくりし絵具の船こそ心の風景画

 

「ああ卵買うの忘れた。どうしたんだろう私」と嘆きつつバスより降りし老婆あり

 

高速を百二十キロで曲がり行くその快感を語りおりしが

 

「3ヶ月間で3.25キロ減らすのよ」と肉食系美人医師に命じられたり

 

ひと目見て蝶の名当てる特技あれど何の役にも立たざりしかな

 

天然ウナギの三郎海に去り青鷺のザミュエル滑川に舞いたり

 

独創的な見解を持っているわけではないけれどその他大勢の意見と一緒にされて怒る

 

皮のままの柿をむさぼり食う腹に落ちたその皮のエグさこそがわが実存

 

列島のすべての海岸に人が出て海に向かって泳ぎ出す日

 

もっと若い子なら立つってよプールを歩きながらおばさんが説く

 

臨時ニュースは無けれども「何事も無し」とは言えず十二月八日

 

横須賀に夏の終わりの薔薇咲きて原子力空母入港したり

 

原発で国を危うくした国の首相が他国に原発を売る

 

69年ただひとりの戦死者も出さざりし憲法9条は国の宝なり

 

セイタカアワダチソウも薄も入り混じって咲いている秋の原っぱ

 

少年がヤツデの葉を振りたりバスに乗りたる私に向かって

 

人身事故で遅れし電車を呪う人誰ひとり飛びこみし人を思わず

 

始業時に間にあわそうと踏切を潜りしことが仇となりき

 

もしなにかあればこの山に逃げようと呟く妻と森を歩めり

 

「万一の時はこの山に逃げましょう」と妻が言うがその万一とは何

 

秋の日を身一点に受けるべくヤマトシジミ羽根を伸ばせり

 

韃靼海峡を渡っていったのはアサギマダラいまそこを飛ぶのはゴマダラチョウ

 

ユーミンの「ノーサイド」流れる競技場さらば昭和よわが青春よ

 

羊雲綿雲鰯雲は天からの贈り物飛行機雲は別にして

 

全員で一年掛けて封筒の切手を集めて壊れたパソコンの修理をたのんだ

 

鶯もおタマもツバメも蛇も棲むこの仕合わせを何にたとうべき

 

水中に長らく身を浸せばおのずから少しく溶け出るものがある

 

他ならぬ愛の力で地球は浮いてる

 

 

なにゆえに真夜中に短歌は生まれるさあ飛び起きて手帖に記せ 蝶人