蝶人戯画録

毎日お届けする文芸、映画、エッセイ、詩歌の花束です。

2008-01-01から1年間の記事一覧

鎌倉国宝館で「鎌倉の精華」展を見る

照る日曇る日第178回&鎌倉ちょっと不思議な物語145回 私がいっとう好きな美術館が、神奈川県立近代美術館鎌倉と「ここ」です。八幡様の境内のなかの木立ちのなかにひっそりとたたずむ校倉造の小さな建物。いつ行っても人影がまばらで心ゆくまで仏像や…

神奈川県立近代美術館鎌倉で「岡村桂三郎展」を見る

照る日曇る日第177回&鎌倉ちょっと不思議な物語144回 重い木材を衝立のように並べ、その表面を岩絵具で塗りたくり、よく見ると象や魚や鳥や獅子や怪獣やらをおどろおどろしく描いたものが警備のガイド嬢のほかは無人の会場に次々現れるので驚いてしまっ…

「BAROQUE  MASTERPIECES」を聴く

♪音楽千夜一夜第49回これまでおよそ1か月にわたってちびちび舐めるように聴き続けてきたソニーBGMグループより限定発売の「BAROQUE MASTERPIECES全60枚」が昨夜でようとう終ってしまった。最後に残った61枚目は曲目リストで、バッハからヴィヴァルディ、ブ…

横須賀交響楽団の「シエラザード」を聴く

♪音楽千夜一夜第48回落ち目の米帝原子力空母によってしかと鎮護されている軍港横須賀を訪ね、まるでカーネギーホールを思わせる素晴らしい音響を誇る「よこすか芸術劇場」にて、はじめて横須賀交響楽団の演奏を聴きました。最初のチャイコフスキーの「スラブ…

「グールドの思い出」by朝比奈隆 その3

♪音楽千夜一夜第47回正しく8分休止のあと、スタインウエイが軽やかに鳴り、次のトゥッティまで12小節の短いソロ楽句が、樋を伝う水のようにさらりと流れた。それはまことに息をのむような瞬間であった。思わず座り直したヴァイオリンもあれば、オーボエの…

「グールドの思い出」by朝比奈隆 その2

♪音楽千夜一夜第46回 さて翌11月19日、イタリアの空は青く澄み、ローマの秋は明るい日差しの中に快く暖かい。午前10時、聖天使城の舞台にはピアノが据えられ、配置の楽員が席につき、私は指揮台に上がって、オーケストラの立礼を受けたが、独奏者の姿…

朝比奈隆氏の「グールドの思い出」より引用

♪音楽千夜一夜第45回私の敬愛するミク友である「ぽんぽこ」さんが、吉田秀和氏やグレン・グールドについて書かれていたので、はしなくも思い出したことがある。それは偉大なる指揮者朝比奈隆氏が1974年にグールドの「ヴェートーヴェン・ピアノ協奏曲全集…

中原昌也著「中原昌也作業日誌2004-2007」を読む

照る日曇る日第176回昔は純文学と大衆文学の区別だとか芥川賞と直木賞とではどちらがえらいかとか徹夜で議論したものだが、最近はそのどちらも大幅な平価切り下げが断行されて、我々一般大衆から見れば、いまや八百屋のキャベツかジャガイモ程度の値打ち…

チン・シウトン監督「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」を見る

照る日曇る日第175回中国の怪奇小説集「聊斎志異」を原作とする幻想的な幽霊映画である。青年が死んだはずの美しい女性の幽霊に恋をしたり、幽霊の大王と戦ったりする荒唐無稽なホラームービーであるが、洋の東西を問わず数多くの幽霊映画が製作されるの…

角田光代著「三月の招待状」を読んで

照る日曇る日第174回誰にしても学生時代の交友関係は、相当あとを引くようだ。その当時の仲間と時を経ながらも浅く、深く付き合い、時に憎み合い、たまさか愛し合い、稀に結婚したり、時折は別れたりもする。そうして終生貴重な友情を保ちながら、歳月と…

椿事

♪バガテルop71先日突然刑事がやってきた。若い体育会系の男性なので、大嫌いな読売新聞の勧誘員かと思ってドアを閉めようとすると、K県警の警察手帳と名刺を出したので、仕方なく玄関口に入れた。聞けば振り込め詐欺の捜査をしているという。話せば長くなる…

イジー・メンツェル監督「英国王給仕人に乾杯!」を見る

照る日曇る日第173回2007年のベルリン国際映画祭やチェコ金獅子賞を獲得したイジー・メンツェル監督の最新作「英国王給仕人に乾杯!」を試写会で見ました。原作はミラン・クンデラと並ぶチェコ現代文学の巨匠ボフミル・フラバルだそうですが、私はま…

上野都美術館で「フェルメール展」を見る

照る日曇る日第172回 濃い金木犀の匂いに誘われるように上野公園を歩いて「フェルメール展」をのぞいてきました。会期ももうすぐ終わりそうだし、なんと本物を7点もまとめて見られるそうだし、連日のように新聞が特集しているので、急いで駆けつけてはみ…

善の研究

♪バガテルop70新約聖書のコリント書だかヨハネ伝に「信と望と愛のうちもっとも大いなるものは愛である」と書いてあったように記憶している。どうして覚えているかというと、私の郷里の墓地の標識の古い石に、祖父の字で「信望愛」と書かれているからだ。しか…

ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」を読む

照る日曇る日第171回久しぶりにドストエフスキーを手に取った。話題の光文社版ではない。手垢のついた米川版である。昔から雑誌は改造、文庫は岩波、浪曲は廣澤虎造、小唄は赤坂小梅、沙翁は逍遙、トルストイは中村白葉、ドストは米川正夫と相場が決まってい…

映画「ベン・ハー」を鑑賞する

照る日曇る日第169回「ベン・ハー」はこの作品だけだと思っていたが、1907年と1925年の2回にわたって映画化されており、ウイリアム・ワイラー監督による1959年製作の本作が3回目だというので驚いた。とにもかくにもあの血わき肉踊る戦車競…

「巨匠ピカソ展」を見る

照る日曇る日第168回 雨上がりの月曜日の午後、心ゆくまでピカソの2つのピカソ展を堪能しました。いつどこで鑑賞しても私の目と心を楽しませてくれるピカソですが、今回の国立新美術館&サントリー美術館あわせて200点以上の大回顧展は、1901年か…

ジョン・ウー監督「男たちの挽歌」を呆然と眺める

照る日曇る日第167回平成万年失業者じゃによって今月も仕事にあぶれているものだから、BSで放送されていた「男たちの挽歌」という香港映画を3本も見てしまった。チョウ・ユンファを一躍スターダムに押し上げたホンコン製フィルム・ノワールだそうだが、…

山田洋次の「学校」を見る

照る日曇る日第167回93年の第1作は東京の夜間中学に通う国籍、年齢、性別もさまざまな生徒と熱血教師(西田敏行、竹下景子)が繰り広げる教育愛の物語。田中邦衛演じるイノさんの話が中心だが、中国からやってきた若者の就職口に悩む竹下の演技や突然…

ムーティ指揮ヴェルディ「仮面舞踏会」を観る

♪音楽千夜一夜第44回2001年5月にミラノ・スカラ座で行われた公演。伯爵のリチートラと女占い師が立派に歌っている。クレギナのアメリアは最初は不調だが、徐々に乗ってくる。演出は女性映画監督のリリアナ・カヴァーナだが特にどうということはない。強…

ダニエル・ハーディング指揮「イドメネオ」を見る

♪音楽千夜一夜第43回05年12月5日、ミラノ・スカラ座におけるモーツアルトのオペラ「イドメネオ」の公演記録である。指揮はこれもたまたまダニエル・ハーディング。古楽の奏法を要所要所で世界一のオーケストラに強いて、いわゆるひとつの現代風の演奏に…

ダニエル・ハーディング指揮「ドン・ジョバンニ」を見る

♪音楽千夜一夜第42回2002年のモーツアルト・イヤーに南仏エクサン・プロバンスの大司教館の中庭で行われたライブ公演である。 若き俊才ダニエル・ハーディングが古楽演奏のマーラー室内管弦楽団を勢いこんで振るのだが、ティンパニーの強打も夏の夜空に…

若林宣編「戦う広告」を読んで

照る日曇る日第166回大東亜戦争当時の日本は、国も国民も異常だったが、広告も異常だった。「撃ちてし止まん」、だの「欲しがりません勝つまでは」、だの「七生報国」などという大政翼賛会のおかかえコピーライターが書いた見事な?檄文に産業界は一斉に…

西暦2008年茫洋長月歌日記

♪ある晴れた日に その40 逝く夏やあまたの栗を拾いけり 紋黄揚羽の雄が由比ヶ浜真っ二つ名月や五人揃いし美人かな道端に魚の尻尾が落ちていた水に漬け叩きつけたるわがパソコンおんどりゃ誰じゃあ正体明かせオラオラ、オンドリャガアア〜片脚を置いてどこか…

日中共同研究「「満洲国」とは何だったのか」を読んで

照る日曇る日第165回いわゆる満州国について私たちの父祖たちが行った行為について、私たちはあまりにも知らなさすぎるのではないだろうか。 おりから珍しくも日本と中国の歴史家たちが共同で「満州国」について研究した成果を集大成した本書が刊行された…

残雪の「暗夜」を読んで

照る日曇る日第164回そういえば私も時々夢を見る。いつものように見る夢だ。会社でリーマンをやっていたときの話だ。わが親しきリーマン・ブラザーズが続々と登場して、中間管理職の私に対してある種の決断を迫るのだ。会社はバベルの塔のような高い高い塔…

続 ロナルド・トビ著「「鎖国」という外交」を読んで

照る日曇る日第163回秀吉、家康を経て我が国は鎖国に突入したというこれまでの学説を全面的に否定したのがロナルド・トビさんの本書である。幕府は一方ではキリスト教を禁じ、日本人の海外渡航と帰国の制限、ポルトガルの追放を行ないつつも長崎、対馬、薩…

ロナルド・トビ著「「鎖国」という外交」を読む

照る日曇る日第162回 663年の天智天皇の「白村江の戦」は同盟国の救援という大義名分があったとしても、豊臣秀吉による文禄・慶長の役は明々白々な海外侵略であった。この狂気の戦によって日本軍は多数の敵兵を殺しただけでなく老若男女の民間人を貴賤…

さらばプロムス2008

♪音楽千夜一夜第41回 この夏8週間にわたって英国各地で繰り広げられたプロムス2008が9月13日のラストプロムスをもって終了した。私のパソコントラブルのために多くのプログラムが聞けなかったのは残念だ。諏訪内選手の鋭いヴァイオリンは聞けたが、ポリ…

息子の言葉『父の遺したもの』第2回

ある丹波の家族の物語 その10&♪遥かな昔、遠い所で第83回オルコット作「若草物語」を読んでの父の感想は、次のようなものでした。 「何でも買うことのできる金持ちは不幸です。」また父は、特殊学級の先達者、杉野春男氏(小倉市、四七年モスクワ空港で没)…